日本子日記

見た目で笑われてるけど、人を笑わせたい人生。

3番目の女

今日は家に帰る途中、晩ご飯どうしようかなーと悩んでいた。

車の中で色々なチェーン店が浮かんだ中、ドラムロールが鳴り、ほか弁に決定。

久しぶりに好きな『とり肉弁当』を食べようと、車で店の前の駐車場へ。駐車場に入る時にふと店内の待ち人を確認。

待ってる人は男性1人。


よしよし、すぐ出来る😃


私は嬉しくなり、ご機嫌で店内へ。


すると、私の目の前で自転車に乗っていたおじさんが店の中へするすると入店。

『あちゃー、3番目か…。』

そう思いながら店内へ入る。

私が店に入ると、駐車場で確認した1番目の男の人がめっちゃ見てくる。
私の動きに合わせて顔を右へ左へ動かす動かす。

『おいおい、感じ悪いな…』と思っていた、その時。

自転車に乗った2番目のおじさんが注文した。

店員は年配のおばあちゃんが2人。カウンターの奥にいた。


『のり弁当』


『声小さいな…聞こえないだろうなー…』と思っていたら、おばあちゃん、やはり聞こえなかった模様。

カウンターからゆっくり出て来た。その時に



『え?』『のり弁当』



少しの時間差で、おばあちゃんと2番目の男の言葉が重なった。


その瞬間、


『のり弁当言うとんじゃゴラァ!!!』


と店内へ響き渡るデカい声と暴言。
おばあちゃん2人共びっくり。

1番目の男、私を見ずにそっ…と反対側の壁を見る。

チッと思う私。


『のり弁当…ですね…』


おばあちゃんが確認しても、無言で不機嫌そうにソファに座る2番目の男。


『ご注文、どうぞ…』


と、しょんぼりしたおばあちゃんに注文を促され、努めて明るく

『とり肉弁当下さい』

と答える私。

ソファは2個あり、それぞれ男が1人ずつ座っている。


私は迷わず2番目の男の方へ座った。


なんとなく、この空気の中、何もなかったように振る舞いたかった。
2番目の男の方が座ってるソファの方が近いし。



座ってすぐ、2番目の男が話かけてきた。

『お姉さん、仕事帰り?』

『そうですよ』

びっくりするくらい愛想が良い私。

それに気をよくしたのか、色々話かけてくる。

まぁ、何でも良い。この空気が軽くなるなら酔っ払いの相手もしてやる。

そして、話の中で2番目の男は酔っ払いだった事が発覚。

あきれた。
お酒に飲まれて人に暴言吐くなんて最低だ、と思った。

その後もお弁当が出来るまで、あしらいは続く。
おばあちゃん2人が心配そうにこちらを見ている視線を感じる。

1番目の男はわき目もふらずそそくさと出て行った。

私は『大丈夫、平気』という空気を伝える。

相手がご機嫌になってきたので、今だ、と思い、

『今は笑ってるけど、入ってきていきなり注文でのり弁当やゴラァって怒るからびっくりしたわー。』

と言うとおばあちゃん2人がサッとこちらを見て、揃って大きく頷く。

『あれは…その…ノリや。のり弁当だけに。わし、あのおばあちゃんのファンやねん』

『ファンでもノリでも、あんな言い方したらいかんわ。店員さんびっくりするやろ。私もびっくりしたもん。普通に注文しいや。』と言った。

『せやなぁ』

と男が恥ずかしそうに笑った。



スッキリした。


あぁ、そうか。何で自分は仕事帰りで疲れてるのにこんなにこの男のご機嫌取りをしていたのか。


私は、この男に『お前は周りが引くくらい怒ってた。』と伝えて、それを本人に認めさせたかったんだなと。

だからあの男の誘いに乗り、調子を合わせてた。

男と話している間、
『自分は何でこんな事してるんだろう?』

と思っていたけど、無意識にゴールがあったんだな、と終わってから分かった。


私のお弁当が出来た。
物凄く長く感じた。会計の時に

『お姉さんの分奢るよ』
と言われたけれど

『今日はちょうどあるしええわ。次会ったら奢って』
と一生会うことはない男に最後の愛想笑いをして店を出た。


あのおばあちゃん達には私はどう写ったのかな。


1番目の男には、2番目の男には私はどう写ったのかな。


私の目には、ちょっと格好良い私が写った。


いつも情けない事でヒーヒー泣き喚いてるんだからたまにはこんな自分もいた事が嬉しかった。


ちなみにとり肉弁当は、前食べた時より美味しくなかったように感じた。

ふとのり弁当が頭をよぎったが、あの男の顔は思い出せなかった。